LCフィルタ
1、実験概要
フィルタとは種々の周波数成分が重ね合わされた信号から、特定(範囲)の周波数成分の信号成分のみを取り出す働き、あるいは特定(範囲)の周波数成分の信号のみを取り除く働きをする回路網の総称である。本実験の目的はフィルタのうち最も基本的なLCフィルタの動作原理を理解することである。
実験は3つ行う。3つのフィルタを作り、その動作減衰両を測定することである。フィルタについて、実際に回路を組み上げ、動作を確認することでLCフィルタに対する理解を深める。
2、原理
2-1.LCフィルタ
フィルタとは、様々な周波数成分が重ね合わされた信号から、特定範囲の成分の信号のみを取り出す、または取り除く働きをする回路のことである。
LC回路は、その共振周波数で振動する電力を蓄えることができる。コンデンサが電極板の間の電場に蓄える電力は、そこにかかる電圧によって変化する。コイルが磁場に蓄える電力は、そこを流れる電流によって変化する。電力を蓄えたコンデンサとコイルが連結されていると、電流がコイルに流れはじめ、そこに磁場が形成され、コンデンサにかかる電圧が低くなっていく。最終的にコンデンサに蓄積された電力は全て放出される。しかし、電流は流れ続ける。これはコイルが電流の変化を阻止するように働き、磁場からエネルギーを取り出して電流を一定に流れさせようとするためである。その電流はコンデンサに徐々に蓄積され、前とは逆の極性で電圧がかかるようになる。磁場が消え去ると電流は停止し、コンデンサに逆の極性で電圧がかかった状態になり、最初の状態に戻る。今度は逆方向に電流が流れ始める。
電荷はコイルを経由してコンデンサの電極間を行ったりきたりする。実際には内部抵抗があるため、外部からエネルギーが供給されない限り、コンデンサとコイルの間のエネルギーの振動は減衰していく。このような動作を数学的には調和振動子と呼び、振り子が揺れるのと同様である。振り子と同様にエネルギーを蓄えるので、特にLC並列共振回路をタンク回路 (tank circuit) とも呼ぶ。
LC回路は特定の周波数の信号を生成するのに使われたり、より複雑な信号から特定の周波数の信号だけを抽出するのに使われる。発振回路やフィルタ回路、チューナー、周波数混合器などで利用する重要なコンポーネントである。LC回路は、電気抵抗によるエネルギーの消散を無視した理想化したモデルである。抵抗も含めたモデルはRLC回路である。
2-2.4つの回路
・低域通過フィルタ(Low-pass filter: LPF)はフィルタ回路の一種で、低周波を良く通し、ある遮断周波数より高い周波数の帯域を通さない(減衰させる)フィルタである。ハイカットフィルタ等と呼ぶ場合もある。低域通過フィルタは高域通過フィルタと対称の関係にある。信号に含まれる必要のない高周波成分を取り除くのに有用なフィルタである。 遮断周波数は、フィルタの設計者が任意に選ぶことができる。
・高域通過フィルタ(High-pass filter: HPF)はフィルタ回路の一種で、高周波を良く通し、遮断周波数より低い周波数の帯域を通さない(減衰させる)フィルタである。 日本語では「高域通過濾波器」とも言われる。また英語では「low-cut filter」とも言われ、これは「bass-cut filter」または「rumble filter」としてオーディオ機器などで使用される。 より高い周波数成分の複雑な信号に含まれる必要のない低周波成分を取り除くのに有用なフィルタである。 もちろん「ロー(低い)」「ハイ(高い)」周波数は、フィルタの設計者によって選ばれた遮断周波数に関連がある。
・帯域通過フィルタ(Band-pass filter: BPF)は、フィルタ回路の一種必要な範囲の周波数のみを通し、他の周波数は通さない(減衰させる)。アナログ回路で構成可能なので、様々な分野の回路に使用されている。アナログ回路ではRLC回路(抵抗、コイル、コンデンサ)で実現できる。これらのフィルタ回路はまた、高域通過フィルタと低域通過フィルタを組み合わせることで作成できる。理想的なフィルタは完全に平らな通過帯域を持ち、通過帯域の外のすべての周波数を完全に減衰させる。さらに、通過帯域からの変移は瞬間である。実際には、理想的な帯域通過フィルタは存在しない。フィルタは必要な周波数帯域外のすべての周波数を完全に減衰させるというわけではなく、特に必要な通過帯域のすぐ外側の帯域では、減衰はするが完全には取り除けない。
・帯域遮断フィルタ(band-rejection filter)は、ほとんどの周波数はそのまま通すが、特定の帯域だけを非常に低いレベルに減衰させるフィルタ回路。帯域通貨フィルタとは逆の動作をする。ノッチフィルタ (notch filter) は、阻止帯域が狭い(Q値が高い)帯域遮断フィルタである。ノッチフィルタは、放送設備(PAシステム)や楽器用アンプ(特にアコースティックのギター、マンドリン、コントラバスなどの楽器用)で、他の周波数にはあまり影響を与えないでフィードバックを削減・阻止するために使われている。他にも、バンドリミットフィルタ、Tノッチフィルタ、バンドエリミネーションフィルタ(band elimination filter, BEF)、帯域阻止フィルタなどの名称がある。
通常、阻止帯域の幅は decade(対数周波数軸で10倍になる区間)で1つか2つぶん以下である(つまり、阻止帯域の最高周波数は最低周波数の10倍から100倍以下)。低周波では、阻止帯域が半音程度のノッチフィルタが使われる。
3、実験
実験回路を図1に示す。フィルタは実用的な梯子型(ladder type)とする。
図1:実験回路
・フィルタの構成
コイル(L)、コンデンサ(C)を収納したLC Box(A、B、C共通)を以下(図2)に示す。コイルのインダクタンス(L1、L2)とコンデンサのキャパシタンス(C1、C2)の各々の公称値とインピーダンスメータによる実測値を表1に示す。A、B、CはLC Boxの記号である。
図2: LC Box ●はターミナル(端子)で、ターミナル間の実線はBox内部で配線済。
表1:L1,L2とC1,C2の公称値と実測値
LC Box
L1、L2の
公称値
L1
[mH]
L2
[mH]
C1、C2の
公称値
C1
[ F]
C2
[ F]
A
79.63
79.55
0.2688
0.2673
B
67.66
68.70
0.2674
0.2678
C
70.95
66.30
0.2664
0.2673
参考のためにLPフィルタ1の動作減衰量αB[dB]を式(1)に示す。
[dB] (1)
本実験では、次の図3~5のLPフィルタとBPフィルタ、合計3個のフィルタの実験を行う。ここで図のLとCは表2のL1またはL2,CもC1またはC2を表す。
図3:実験(1)
図4:実験(2)
図5:実験(3)
3-1.使用器具
・KENWOOD ACVOLTMETER VT-171E(1701004911)
・KEWOOD RESISTANCE ATTENUATOR RA-920
・TEXIO OSCILLATOR AG-203E(13040058)
・LC FILTER MODEL DLC-1(06-94-01558-0-71)
・ケーブルセット
3-2.実験(1)
・αBの測定
抵抗減衰器は両終端抵抗が600[Ω]のとき、ダイヤルの表示する[dB]値が動作減衰量である。ここでは量終端抵抗がR0=RL=600[Ω]のときのLCフィルタの動作減衰量αB[dB]を測定する。
・LPフィルタ1、2の動作減衰量の測定法
1:図1でSGの周波数fを100[Hz]に設定し、抵抗減衰器(ATT)は60[dB]にする。そのときのSGの出力を加減して電圧計Ⓥの表示値|VL|=1[mV]を記録しておく。
2:次の各周波数1000、1500、3000、4000、5000[Hz]において|VL|=1[mV]になるように、抵抗減衰量はαB=60-α1[dB]である。
αBを表2に記入すると同時に片対数用紙にプロットした(図6)
表2:LPフィルタの動作減衰量
周波数[Hz]
100
1000
1500
2000
3000
4000
5000
LPフィルタ1
α1[dB]
αB[dB]
60
0
58.1
1.9
55.7
4.3
52.8
7.2
48.2
11.8
44.7
15.3
42.0
18.0
PLフィルタ2
α1[dB]
αB[dB]
60
0
57.9
2.1
55.2
4.8
51.3
8.7
42.7
17.3
36.4
23.6
30.9
29.1
3-3.実験(2)
・BPフィルタの動作減衰量αBの測定法
1:図1でSGの周波数fを1000[Hz]に設定し、抵抗減衰器は60[dB]にする。そのときのSGの出力を加減して電圧計Ⓥの表示値|VL|=1[mV]を記録しておく。
2:次の各周波数100、200、300、400、500、600、700、800、1100、1500、2000、3000、4000、5000、6000、8000、10000[Hz]において|VL|=1[mV]になるように、抵抗減衰器を減少させる。...