『羅生門』における〈生〉

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    日本近現代文学史2  平成二十一年 --
    『羅生門』における〈生〉
     「羅生門」は、芥川龍之介が大学三年生になって間もない大正四年(一九一五)年に発表された、芥川の作家としての出発点とされる作品である。この作品については、作家や他の作品との関連も含め、多くの解釈がある。ここでは、キーワードを見出しながら作品を読み、全体を通して「羅生門」に描かれる〈生〉について言及する。
    とりあえずの選択ができる〈余裕〉
    下人は、雇われていた主人から、四五日前に暇を出された。この二三年、京都には災が続いて起こり、その余波が下人にも来たようだった。彼は「盗人になるより外に仕方がない」と考えている。
     では、危機迫った状況なのかというと、どうやらそうでもない。下人は、「手段を選ばないという事を肯定しながらも」、盗人になることを「積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいた」。彼はこの時点で、盗人になるということを十分に認めている。盗人になるという結論を既に出しているはずだ。しかし、とりあえずの寝床を確保したところで落ち着いているような印象を受ける。
     この下人の様子を、どうしても〝派遣村〟の〝村民〟に重ねたくな...

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