人的資源管理論職務主義と属人主義

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    人的資源管理論 職務主義と属人主義

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    アメリカの人的資源管理における「職務主義」とは、組織を職務の集合体とする考え方を指す。職務に対して人が配置され、その職務を超えて人は責任を負わない構造になっている。職務の設定には、職務分析を起点にして職務記述書、職務評価、職務給の順に職務を決定するのが原則である。職務分析は職務の内容、性質、作業環境、また、職務遂行に要する経験、知識、責任などを分析する手続きである。職務記述書は分析によって得られた情報をもとに、職務を遂行するに足る人の要約事項である。この記述書をもとにして作られる職務評価は、職務の経営内における相対的価値を決定し、従業員の配置や職務給の決定を行う。最終的に職務給が設定されると実際に募集のプロセスに入る。

    あるアメリカの自動車工場の車体部門では、職務が8つに分かれている。Group1 生産セクション224人、Team Operator 200人、Relief Operator 20人、Special Operator 4人、Team Coordinator24人、Group1-B補修セクション32人、Team Operator 20人、Dingman Repair 4人、Finish Repair 5人、Silicon Bronze Repair 2人、そしてこれらすべてを統括するcoordinator24人というように職務ごとに内容や性質が明確に区分されている。そして高い能力や責任が要求される職務はCoordinator、補修セクション、生産セクションの順で賃金が高い。それぞれの職務グループ内では昇進が一切なく降格しかない制度で、レイオフの場合は上位の職務から降格人事を行い、最後にはみ出した従業員がレイオフの対象になる。そのため日本のように業績悪化のための一律給料カットといったことは行われず、職務ごとに職務給の再設定が行われる。このように職務の区別が明確であり、それに対応した人的資源の投入・採用を行っているため、日本のような昇格・異動のシステムは原則としてない。例外的に降格という異動があるだけだ。

     日本の「属人主義」とは、職務が無限定的で、人の集合体として捉える組織構造を指す。インターフェース部分はそれぞれの周りにいる人が担当することになり、人事考課によって人的資源の管理を行っている。人事考課とは能力、態度、業績を通じて、公正に評価し、人材の開発育成等に役立てる手続きのことを指します。「職務主義」と「属人主義」の最大の差異は、前者が選抜の論理であるのに対して、後者は人材育成の論理が軸になっている。というのも、社員の能力に合わせて仕事の配分を行い、社員の能力に合わせて給料が支払われる職能給であるからである。これを職能資格制度と呼び、能力の向上に対して昇進するシステムだが、実際には年齢制約などがあって年功主義の尾を引っ張っている。

     松下電器(現:パナソニック)では事業部制をとっており、人事異動、役付任命、昇給額・賞与額の決定は、全社基準で事業場長が決裁権をもっていた。当初は人事部と厚生部の2部しかなかったが、規模拡大にともない人事1部・2部、教育訓練部、考査部、体育委員会の5部に細分化された。人事方針もその付近に設定され「松下電器の経営基本方針を十分に理解し、それを実践する人材を育成することにある。」とあり、属人主義的な人材の育成に重点がおかれている。人事の部門でみても、評価する考査とOJTを行う教育訓練部があるところが、アメリカと違って職務よりも人間を中心に置き、能力に対して給料が支払われる職能資格制度であることがわかる。松下電器の採用方針には、学業成績の良い人、スポーツマンで明るい性格の人、辛抱強く努力する人、それぞれ3分の1ずつ採用するというのがある。これからも「職務主義」に見られる職務遂行に要する経験、知識、責任といった一時点でのハードルではなく、人材の成長を見据えた継続的なハードルが用意されている。配置・異動に関しては、自己申告制をとり強制的に異動となることはないものの、盛んに行われていた。松下電器では66年に「仕事別賃金制度」が実施され、これは同一労働同一賃金を目指す制度で、78年に資格制度をこれに盛り込み職能資格制度となった。具体的には役職と資格の2つの基準で、役職には部長、課長、係長、主任、班長があり、資格には参事、副参事、主事、主任、担任という資格を設けた。あらゆる処遇は資格に基づいて行わるが、役職は組織の実情に応じてつけられていた。

     このように「職務主義」では職務に対して人が配置されるために効率的な経営が可能になるが、人材の育成は難しく持続的な成長にはそれぞれの従業員が業務を超えて自律的にキャリアアップする必要がある。一方で「属人主義」では逆の現象が起こり、明確な基準で採用していないため、レイオフがしにくくなっている。そのため、日本は子会社への左遷の慣習化がみられたり、それぞれの特徴は一長一短である。
    参考文献

    篠原健一『職務配置の変遷 : アメリカ自動車工場の一ケース』京都マネジメント・レビュー、2007年

    小原明『高度成長期における人事制度の発展 : M電器の事例』龍谷大学経営学論集、2004

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