『三国伝記』第十二巻 第三「恵心院源信僧都事」における唱導文学的特徴について述べよ。
Ⅰ 唱導、および唱導文学とは
唱導文学という語は折口信夫によって始めて使用され、以後、永井義憲、岡見正雄などによって研究されてきた。近年、平安期の資料の発見・検討や、説話文学研究の側からの出展研究などを通じてかなりの部分が解明されるに至っている。唱導文学こそは、文学と仏教が最も接近した分野であり、そこから軍記、能、説話などのジャンルへと豊かな流れが形づくられているのである。
唱導とは広義には、法会の際の導師以下の僧衆の身体作法など、法会の次第全てを含むものであるが、その中心となるのは、表白・願文・諷誦・説法で、唱導は仏教流布のための布教の手段として行われるものである。法会の場における唱導は、説話が比喩因縁譚として用いられることが多かった。
法会は、俗人を交えて行われるのが普通であるから、俗人に理解しやすく、宗教的感動を与えるために荘厳でなければならない。この2つの要求は、口頭詞書と表白詞書にそれぞれ対応した。唱導において特に重要であったものは、口頭詞書と表白詞書であり、文人・文章博士などが作成した願文...