『具体的な作品を挙げながら文学の種類をジャンル別にまとめ、それぞれのジャンルの特長について自分の考えを述べよ』
設題に答えるにあたって最初にしっかりと押さえておかなければならないことがある。ジャンルの基準や境目は相対的なものでしかありえず、時代・文化・個人の認識によって違ったものとなるということである。そのため今回のリポートでは、今まさに我々が生きる現代日本における認識を想定してジャンル分けをすることとする。
詩歌
詩は言葉の語感やニュアンスを重視し、それらによって先鋭化された感覚を共感的に楽しむ文芸である。特に詩が詩として成り立つための重要な条件は世界観の共有である。例えば俳句は世界にも類を見ぬ単型文学であるが、これが成立するのは日本人みながある程度同じような美的感覚を持っているからであろう。
私事だが松尾芭蕉の名句「古池や蛙飛び込む水の音」をオーストラリア生まれの友人に口頭で訳しつつ紹介したら、「で、その続きはどうなるの?」と言われたことがある。確かにこれを英語に訳せば単なる写生文になってしまい、そこには日本人なら当たり前に感じられる周縁世界は殆ど残らない。森鴎外が『即興詩人』訳し...