憲法論文答案練習 国会
不逮捕特権と期限または条件付の許諾
【問題】
議院は、所属議員の逮捕請求を許諾するに当たって、条件または期限を付すことができるのか。
【考え方】
…前提として議院の許諾の判断基準をどのように考えるかによって、帰結が異なる。
(判断基準に関する見解)
① 正当な逮捕か否かを判断基準とする見解。
② 議院の職務遂行を遂行するか否かを判断基準とする見解。
③ 逮捕が明らかになる場合には許諾を拒否できるのに対し、明らかに議員の職務遂行を害するか否かも、判断材料として加えて判断できるとする見解。
(条件または期限を付すことの可否)
A 上記①の見解を前提として、逮捕が正当である以上、条件や期限を付けることはできないはずであるとして、これを否定する見解。
B 上記②の見解を前提として、ある議員を欠く事によって議院の組織的活動に支障が生ずるか否かは、審議の進行状況によって変化することを根拠として、これを肯定する見解。
C 上記③の見解を前提として、逮捕が明白に正当である場合は条件・期限を付すことができないが、そうでない場合には、条件・期限を付すことも可能であるとする見解。
【答案例】(Cの見解をベースに作成)
本問を検討するにあたり、前提として不逮捕特権の目的をどう解するかが問題となる。
この点については、不逮捕特権の沿革を重視して、政府による不当な逮捕から議員を保護することを不逮捕特権の目的であると解する見解がある。しかし、一般に議会の多数派が政治権力を掌握し、検察行政の政府からの独立性が確保されるに至っている現代社会においては、君主権力と民選の議会が鋭く対立した時代の沿革に過度にこだわるべきでない。むしろ、国会が活動能力を有する会期中にのみ不逮捕特権が認められていることを考えれば、沿革を無視することはできないとしても、議院ひいては国会の組織的活動力の保全に重点が置かれていると解するべきである。
したがって、私は、不逮捕特権の目的は、政府による不当な逮捕から議員を保護することによって、議院の組織的活動を保障するためのものであるが、特に、後者に重点が置かれるべきである。
それでは、議院は、所属議員の逮捕請求を許諾するにあたり条件または期限を付すことは可能か。
思うに、議院の許諾の判断基準を、逮捕が正当であるか否かに求めるのであれば、逮捕が正当であるとして逮捕を許諾しながら、条件または期限を付することは背理であると言える。したがって、許諾に条件または期限を付けることは許されない。他方、議院の許諾の判断基準を、議院の職務の遂行が害されるか否かに求めるものであれば、ある議員が欠けることにより議院の職務の遂行が害されるか否かは審議の進行状況等で大きく変わりうる。例えば、現在ではある議員が逮捕されても支障はないが、一週間後には支障は生ずることも十分起こりえる。したがって、このような場合に対応するため、許諾に条件または期限を付しうるのは当然であると考える。
しかし、前述のように、私は、逮捕が明らかに正当または不当な場合を除く中間的な場合には、議員が逮捕の許諾にあたってその議員がかけることが職務の遂行を害するか否かを判断基準として考慮することができると解する。したがって、逮捕が明白に正当な場合は条件・期限を付すことはできないが、それ以外で逮捕が明白に不当とまで言えず逮捕を許諾しうる場合は、条件または期限を付すことも可能であると考える。
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