手形小切手法論文答案練習 手形流通の保護 後者の抗弁

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    資料の原本内容

    手形小切手法論文答案練習 手形流通の保護
    ~後者の抗弁~
    【問題】
    Aは、Xとの売買契約の代金支払のため、Yが振り出した約束手形をXに裏書譲渡したところ、Xが目的物を引き渡さないため、売買契約を解除した。Yは、Xの手形金請求を拒むことができるか。
    【考え方】
    1)権利移転行為有因論
    ・・・手形理論として二段階説を採ることを前提として、手形行為を債務負担行為と権利移転行為とに分け、前者を無因行為、後者を有因行為と解して、裏書の原因関係が無効・消滅・不存在の場合、手形上の権利は裏書人に復帰するとする。
    2)無因論・人的抗弁の個別性を貫く説
     ・・・所持人が手形上の権利者であるとし、また、人的抗弁の個別性を貫き、所持人が手形上の権利を行使することの不当性は、裏書人との内部関係(手形上の権利)において、不当利得の返還により解決すべきであるとする。
    3)無因論・人的抗弁の個別性を前提としつつ修正する説
     ・・・所持人が手形上の権利者であるとし、また、人的抗弁の個別性を認めつつ、その権利行使を信義則違反または権利濫用として否定する。
    【答案例】
    (A)権利濫用説に基づき作成
     約束手形の裏書人Aは、Xへの裏書の原因関係となった売買契約を解除しており、解除による原因関係の消滅を主張してXの手形金請求を拒むことができる(手形77条1項1号、17条但書)。
     それでは、振出人YはXの手形金請求を拒むことができるか。
    1 思うに、手形法75条2号、12条1項(77条1項1号)が「単純」と規定しているのは、手形行為を原因関係と別個のものとすることによって、手形の流通性を高めるためであるから、裏書の原因関係が消滅しても、所持人は依然として権利者である。
      また、同一の手形上になされる各々の手形行為は、それぞれ別個独立のものであり、
    人的抗弁の制限(77条1項、17条本文)は、人的抗弁はそれが生じた人的関係の当事者間のみにおいて意義を有すべきことを示していると解されることから、特定の手形債務者が有する人的抗弁は、その者しか主張できず、他の手形債務者がこれを援用することは許されない。
      とすると、裏書の原因関係が解除されても、被裏書人は依然として権利者であり、振出人は、裏書人の被裏書人に対する人的抗弁を主張して、被裏書人の手形金請求を拒むことができないようにも思われる。
      しかしながら、仮に振出人が被裏書人に対して手形金を支払っても、被裏書人はこれを保持することができず、不当利得として裏書人に返還しなければならないはずであり、このような方法を採ることは迂遠である。
      思うに、自己の債権の支払確保のため、約束手形の裏書譲渡を受け、その所持人となった者が、裏書の原因関係が消滅したときは、特別の事情がない限り爾後右手形を保持すべき何らの正当の権原を有しないことになり、手形上の権利を行使すべき手形上の権利を行使すべき実質的理由を失ったものである。
      しかるに、たまたま手形を返還せず手形が自己の手許に存することをいいことに、自己の形式的権利を利用して振出人から手形金の支払を求めようとするのは、権利の濫用にあたり(民1条3項)、許されないと解するべきである。
    2 これに対して、手形行為を債務負担行為と権利移転行為とに分け、前者を無因行為、後者を有因行為と解して、裏書の原因関係が無効・消滅・不存在の場合、手形上の権利は裏書人に復帰するとして、手形所持人の手形金請求を否定する立場もある。しかしながら、この立場では何ゆえ同一の原因関係が権利移転行為との関係では有因的に作用し、他の債務負担行為との関係では無陰的に作用するのか理論的な疑問があるし、無権利者となった手形所持人からさらに手形の譲渡を受けた者は16条2項によって善意無重過失の場合にしか保護されないこととなるから、妥当でない。
    3 以上より、Xの手形金請求は権利濫用にあたり、Yはこれを拒むことができると解する。

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