2-102成分・2相平衡の例

閲覧数3,360
ダウンロード数16
履歴確認

    • ページ数 : 7ページ
    • 全体公開

    資料紹介

    2成分・2相平衡の例
    化学に近い物理。
    状況の説明
     2種類の分子が混じった液体を考える。 水とアルコールの混合液はかなり身近な例だろう。 いや、化学的に身近だという意味で言ったのだ。 私は酒類は飲まない。
     この混合液(水割り?)を真空容器に半分ほど注いでやれば、残りの空間は水蒸気とアルコール蒸気の混合気体で満たされるだろう。 この状況下での気相と液相の平衡はどのような条件で保たれているのだろうか。
     これまでの論理をそのまま使えばいい。 分子の移動量がつりあうための条件はそれぞれの相の化学ポテンシャルが等しい事であった。 しかし水が移動してアルコールになるわけではないのだから、水とアルコールの化学ポテンシャルが等しくなっている必要はない。 水蒸気は液体の水と、アルコール蒸気は液体のアルコールとそれぞれで釣り合っていればいい。
     ところで重要な確認がまだだった。 純粋な物質の場合には「化学ポテンシャルとは1モルあたりのギブスの自由エネルギーである」と定義しておけば、誤解のしようがなかったが、混合物の場合にはこの表現を使ったのでは複数の解釈が許されてしまって、「水分子とアルコール分子を合計して1モル取り出した時に、その中に含まれる、それぞれの分子のギブスの自由エネルギー」のことではないかと疑う事も出来てしまう。
     実際はそんなややこしい解釈はしなくても良くて、素直に「各分子を1モル取り出した時のギブスのエネルギー」だと考えておけばいい。 落ち着いて考えれば当然のことだ。 液相の水分子1モルが気相の水分子1モルに変化する時、あるいはその逆の変化をする時のエネルギー差が問題なのであるから、液相の水分子1モルと気相の水分子1モルのギブスエネルギーを比較しないと意味がない。 前回、全体のギブスのエネルギーを
    のように表せると考えたが、これをそのまま素直に受け止めてもらえれば問題ない。 ここで添え字の a はアルコール、w は水を表している。
     純粋な物質を扱った時には、化学ポテンシャルは温度 T と圧力 p のみの関数であった。 しかし混合した場合にはその混合の仕方によっても値が変化すると考えるべきである。 つまり濃度にも依存するということだ。 そこでアルコール濃度を次のように定義しておこう。
     難しいことはなくて、ごく当然の定義である。 そして、ここまでをまとめれば、化学ポテンシャルは μ ( p, T, x ) という形の関数になっているということである。
     上で全体のギブスのエネルギーの式を書いたが、平衡状態でない場合には化学ポテンシャルの値はそれぞれ異なるので、液相と気相とで別々に考えておくべきである。
     少し添え字を増やしたが慌てないで欲しい。 液相に関係する量には liquid の頭文字 l を、気相に関係する量には gas の頭文字 g を付けて区別してある。
    何が起こるか
     準備は整った。 共存条件を考えよう。 水の共存条件は
     アルコールの共存条件は、
    と書ける。 純粋な物質の場合にはこのような条件式は一つだけしかなくて、それは f ( p, T ) = 0 という形にすることができた。 それは蒸気圧曲線を表しており、そこから沸点を求めたり飽和蒸気圧を求めたりしたのだった。 今回は式は2つあって、次のような xl を消去したものと、xg を消去したものとの2通りの式を導く事が出来るはずである。
     変数が3つあるからこれをグラフに表すのはちょっと大変だ。 圧力 p を固定すれば次のような感じになる。 横軸がアルコ

    資料の原本内容

    2成分・2相平衡の例
    化学に近い物理。
    状況の説明
     2種類の分子が混じった液体を考える。 水とアルコールの混合液はかなり身近な例だろう。 いや、化学的に身近だという意味で言ったのだ。 私は酒類は飲まない。
     この混合液(水割り?)を真空容器に半分ほど注いでやれば、残りの空間は水蒸気とアルコール蒸気の混合気体で満たされるだろう。 この状況下での気相と液相の平衡はどのような条件で保たれているのだろうか。
     これまでの論理をそのまま使えばいい。 分子の移動量がつりあうための条件はそれぞれの相の化学ポテンシャルが等しい事であった。 しかし水が移動してアルコールになるわけではないのだから、水とアルコールの化学ポテンシャルが等しくなっている必要はない。 水蒸気は液体の水と、アルコール蒸気は液体のアルコールとそれぞれで釣り合っていればいい。
     ところで重要な確認がまだだった。 純粋な物質の場合には「化学ポテンシャルとは1モルあたりのギブスの自由エネルギーである」と定義しておけば、誤解のしようがなかったが、混合物の場合にはこの表現を使ったのでは複数の解釈が許されてしまって、「水分子とアルコール分子を合計して1モル取り出した時に、その中に含まれる、それぞれの分子のギブスの自由エネルギー」のことではないかと疑う事も出来てしまう。
     実際はそんなややこしい解釈はしなくても良くて、素直に「各分子を1モル取り出した時のギブスのエネルギー」だと考えておけばいい。 落ち着いて考えれば当然のことだ。 液相の水分子1モルが気相の水分子1モルに変化する時、あるいはその逆の変化をする時のエネルギー差が問題なのであるから、液相の水分子1モルと気相の水分子1モルのギブスエネルギーを比較しないと意味がない。 前回、全体のギブスのエネルギーを
    のように表せると考えたが、これをそのまま素直に受け止めてもらえれば問題ない。 ここで添え字の a はアルコール、w は水を表している。
     純粋な物質を扱った時には、化学ポテンシャルは温度 T と圧力 p のみの関数であった。 しかし混合した場合にはその混合の仕方によっても値が変化すると考えるべきである。 つまり濃度にも依存するということだ。 そこでアルコール濃度を次のように定義しておこう。
     難しいことはなくて、ごく当然の定義である。 そして、ここまでをまとめれば、化学ポテンシャルは μ ( p, T, x ) という形の関数になっているということである。
     上で全体のギブスのエネルギーの式を書いたが、平衡状態でない場合には化学ポテンシャルの値はそれぞれ異なるので、液相と気相とで別々に考えておくべきである。
     少し添え字を増やしたが慌てないで欲しい。 液相に関係する量には liquid の頭文字 l を、気相に関係する量には gas の頭文字 g を付けて区別してある。
    何が起こるか
     準備は整った。 共存条件を考えよう。 水の共存条件は
     アルコールの共存条件は、
    と書ける。 純粋な物質の場合にはこのような条件式は一つだけしかなくて、それは f ( p, T ) = 0 という形にすることができた。 それは蒸気圧曲線を表しており、そこから沸点を求めたり飽和蒸気圧を求めたりしたのだった。 今回は式は2つあって、次のような xl を消去したものと、xg を消去したものとの2通りの式を導く事が出来るはずである。
     変数が3つあるからこれをグラフに表すのはちょっと大変だ。 圧力 p を固定すれば次のような感じになる。 横軸がアルコール濃度である。
     何から説明しようか。 まず、これは圧力が一定である状況を考えているので、容積が変化するようなピストン付きの容器の中に閉じ込められた状況であると考えなくてはならない。 そのピストンには一定の力が掛かっている。 純粋な物質の場合、この状況に置かれると平衡は不安定であって、共存曲線を境にして、全て気体か、全て液体かのどちらかになるのだった。 混合物質の場合も似たような事が起こる。
     2つの曲線によってグラフが3つの領域に区切られている。 上の曲線は「気相線」または「凝縮線」と呼ばれており、それより上の領域では全て気体になっている状態が安定である。 下の曲線は「液相線」または「沸騰線」と呼ばれており、それより下の領域では全て液体になっている状態が安定である。 真ん中の領域については一言では言えない。 これから具体的に説明しよう。
     まず全て液体であるような状態 A から始めて、温度を徐々に上げていくと、やがて B で液相線にぶつかる。 するとここでアルコールと水の蒸発が始まる。 その時に気相が生まれることになるが、その濃度は C 点で表されている。 つまり、元の状態よりもアルコール濃度の濃い気体が蒸発してくるのである。 これは液相から水よりアルコールの方が多めに抜けて行くことを意味するので液相の濃度は逆に下がり、液相の状態は徐々に D に向かって登って行くだろう。 ゆっくり温度が上昇しながら蒸発を続けるのである。 やがて液相の状態が D に達してしまうと、後は純粋な水だけの蒸発となる。 蒸発が終わるまで温度は上がらなくなる。
     そう言えば、水溶液を加熱した時にこのような温度変化をすることについての実験を中学でやった覚えがある。 最近の教育課程でもちゃんと学んでいるのだろうか。 当時は意味を理解していなかったが、結構高度な事をやっていたのだなぁ、と今になって思う。
     このことを応用すれば、濃度の高いアルコールを得る事が出来る。 蒸発してきた気体だけを集めて再び液体に戻してやれば前よりも濃い液体となる。 これの温度を再び上げてやれば先ほどよりもっと濃いアルコール蒸気が得られるだろう。 何度も繰り返してやることでアルコール濃度をどんどん上げて行ける。 このようにして2つの成分を分離する方法を「分別蒸留」あるいは「分留」と呼ぶ。
     ここでは水とアルコールを例にしたが、固体の金属合金を溶かす時にも同じようなことが起きる。 これを利用すれば合金から純粋な金属を取り出すことも出来る。 昔から行われている「精錬」と呼ばれる過程だ。
     ところで塩水を熱した時にはどうなるだろうか。 これも2成分の混合物だが、蒸発してくるのは水だけである。 この場合はつりあいの条件として水だけを考えればいいことになる。 塩についての気相と液相の釣り合いは考えようがないからである。  こんな風に状況に合わせて理論形式を変える統一性のないやり方はどうも気に食わないと言う人もいるだろう。 私もそうだ。 そういう人は、ごくごく微量の塩分が気相中にも含まれていて、それだけで液相中の塩分の化学ポテンシャルと釣り合っているのだという考え方をしても間違いではない。 実用的であるかは別としてむしろその方が厳密な考え方だろう。
    エネルギー変化の様子
     水とアルコールの混合液についての理解をもう少し広げておこう。 上の状態図の左に T1, T2, T3, T4, T5 の5つの温度が示してある。 それぞれの温度の時にギブスの自由エネルギーがどうなっているかを示したのが下の5つの図である。 緑が気相のギブスのポテンシャル、 青が液相でのギブスのポテンシャルである。 これらは1モルあたりのエネルギーに換算してある。 ここで言う「1モルあたり」というのは水分子とアルコール分子を合わせて1モルだという意味であるから、化学ポテンシャルとはまたちょっと意味合いが違う。
     曲線の形は物質の組み合わせによって違うので、これはおおよその概念図でしかないし、説明しやすいように大げさに描いてあったりする。 細かい部分は参考にしてはいけない。
     T1 の時は、全ての濃度で液相のエネルギーの方が低い。 よって常に液相のみが現れることになる。 T5 は全くその逆であって、常に気相のエネルギーの方が低いので、全ての分子が気相になった方が安定である。 T2 と T4 は右端か左端かだけで両方のエネルギーが一致しているが、つまり純粋な物質の液相と気相の平衡では両者のエネルギーが一致している事を表している。
     最も興味があるのは T3 の時である。 この図を使えば、なぜ状態 B に達した液相から 状態 C の気相が蒸発してくるのかが説明できる。 2つのエネルギー曲線の共通接線を赤色で引いておいた。 液相のエネルギー曲線(青)と赤色の直線の接点の位置に相当するのが状態 B である。 ところがこの状態よりも右側に位置する気相の方がエネルギーが低い。 そこで混合液体は右側にある接点を目指すために、徐々に気相に変化し始める。 変化前の状態の分子が徐々に減って行き、代わりに変化後の状態の分子が徐々に増えるので、合計のエネルギーはこの赤色の直線上を移動することになる。 右側の接点に達した時点ではまだ最低エネルギー状態ではないが、気相への変化はとりあえず完了である。
     実際には少し変化するごとにエネルギーの曲線の形が変わって行くので、説明し切れていないところもあるが、だいたい何が起きているかという本質の部分を掴んで貰えたらと思う。
     共通接線と各エネルギー曲線との接点がそれぞれ状態 B, C に相当していることはちゃんと数学的な方法で示す事が出来る。 気相と液相の1モルあたりのエネルギーは次のように表せる。
     平衡が成り立っているところでは各物質の化学ポテンシャルは等しいから、
    と簡略化して書いておこう。 ここで、気相側の平衡状態 xg でのエネルギー曲線 Gg の傾きは
    ...

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。