1-2エーテル理論の失敗

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    エーテル理論の失敗
    当時の人だって真剣に考えた。
    エーテル理論
     当時の人の気持ちになって考えてほしい。 波と言えば、何かが揺れている現象である。 では電磁波の場合は何が揺れているのだろう。 よく分からないのでとりあえず「エーテル」という名前で呼ぶことにした。 この「エーテル」の語源は、アリストテレスが火・水・土・空気の4元素説に加えて、天上界にある第5の元素として挙げている元素の名前であって、これを使ったネーミングセンスはなかなかのものである。 このエーテルは宇宙を満たしているに違いない。 なぜなら遠く離れた星からの光も地球に届いているのだから途中の宇宙空間にもエーテルがなければならない。 すると地球はエーテルの海の中を突き進んでいることになる!
     もしそうならば、測定器の向きを変えて測定してみて光の速さがどれくらい変化するかを調べれば、我々がエーテルの中をどれくらいの速さで突き進んでいるかが分かる筈である。  ところが、どんなに精密に測定しても、光の速さは変化しなかった。 季節を変えても、場所を変えても、昼と夜を比べても。 (地球は自転しているので夜と昼とではエーテルの流れの方向が逆になるはずだ。) 我々はエーテルに対して止まっているのだろうか? 太陽の周りの公転運動だけ考えても、地球はかなりの速さで宇宙を進んでいるはずなのに。  天動説の再来である。 やはり宇宙の中心で止まっているのは地球の側で、他の星が周りを回っているのか?! そんなはずはない!
     そこでエーテルについて色々な説が出た。 エーテルは地球と一緒に回っているに違いない、とか、 エーテルは物質に引きずられるのだろう、とか。 これらの説は一理ありそうだが、矛盾が出てくる。 光の速さは地球上でだけ測定したわけではないのだ。 木星の衛星の食を利用しても測られている。 また、エーテルが回転していたら星の光が流されて観察される現象が起きるはずだがそのようなことは起きていない。 今このようなエーテルが存在することを主張すると笑われてしまうが、当時は誰もが真剣にこのような可能性を探ったのである。  もちろん、我々が光の速度を直接測定したのは地球のごく近くだけであって、(間接的には測られており、矛盾はないようである。)将来、太陽系のはるか外へ出て行って光の速度を測定したら違っていた、という可能性がないわけではないことを認める謙虚さは必要である。 しかし、分かっている範囲で最良の理論を作り上げるのが物理学のやり方なのである。
     そして数理物理学者ローレンツも当時分かっていた範囲でエーテルについての一つの説を出した。
    ローレンツの小細工
     ローレンツは、エーテルの中を物体が進む時には、「エーテルの風」の影響で物体が進行方向に縮むのだと考えた。(1895年) このために観測装置は光の速さの変化を捉えることが出来ないだけだというのである。 物差しも人間も全て進行方向に対して縮むので我々はその「縮み」を感じることは出来ないという理屈である。 この理論はなかなか馬鹿にしたものではない。  計算してもらえば分かるが、彼の主張する通り、エーテルに対して速度を持つとき、観測装置や我々を含む全ての物体が進行方向に対して √(1-v2/ c2) 倍に縮むならば、マイケルソン・モーレーの装置では光の速度の変化は測定できないことになる。 これは相対論に出てくる「ローレンツ短縮」そのままの値である。  ではなぜ縮むのだろうか? これについても彼は計算している。 もし物体がエーテルの中を進む時、その質量が増加するなら

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    エーテル理論の失敗
    当時の人だって真剣に考えた。
    エーテル理論
     当時の人の気持ちになって考えてほしい。 波と言えば、何かが揺れている現象である。 では電磁波の場合は何が揺れているのだろう。 よく分からないのでとりあえず「エーテル」という名前で呼ぶことにした。 この「エーテル」の語源は、アリストテレスが火・水・土・空気の4元素説に加えて、天上界にある第5の元素として挙げている元素の名前であって、これを使ったネーミングセンスはなかなかのものである。 このエーテルは宇宙を満たしているに違いない。 なぜなら遠く離れた星からの光も地球に届いているのだから途中の宇宙空間にもエーテルがなければならない。 すると地球はエーテルの海の中を突き進んでいることになる!
     もしそうならば、測定器の向きを変えて測定してみて光の速さがどれくらい変化するかを調べれば、我々がエーテルの中をどれくらいの速さで突き進んでいるかが分かる筈である。  ところが、どんなに精密に測定しても、光の速さは変化しなかった。 季節を変えても、場所を変えても、昼と夜を比べても。 (地球は自転しているので夜と昼とではエーテルの流れの方向が逆になるはずだ。) 我々はエーテルに対して止まっているのだろうか? 太陽の周りの公転運動だけ考えても、地球はかなりの速さで宇宙を進んでいるはずなのに。  天動説の再来である。 やはり宇宙の中心で止まっているのは地球の側で、他の星が周りを回っているのか?! そんなはずはない!
     そこでエーテルについて色々な説が出た。 エーテルは地球と一緒に回っているに違いない、とか、 エーテルは物質に引きずられるのだろう、とか。 これらの説は一理ありそうだが、矛盾が出てくる。 光の速さは地球上でだけ測定したわけではないのだ。 木星の衛星の食を利用しても測られている。 また、エーテルが回転していたら星の光が流されて観察される現象が起きるはずだがそのようなことは起きていない。 今このようなエーテルが存在することを主張すると笑われてしまうが、当時は誰もが真剣にこのような可能性を探ったのである。  もちろん、我々が光の速度を直接測定したのは地球のごく近くだけであって、(間接的には測られており、矛盾はないようである。)将来、太陽系のはるか外へ出て行って光の速度を測定したら違っていた、という可能性がないわけではないことを認める謙虚さは必要である。 しかし、分かっている範囲で最良の理論を作り上げるのが物理学のやり方なのである。
     そして数理物理学者ローレンツも当時分かっていた範囲でエーテルについての一つの説を出した。
    ローレンツの小細工
     ローレンツは、エーテルの中を物体が進む時には、「エーテルの風」の影響で物体が進行方向に縮むのだと考えた。(1895年) このために観測装置は光の速さの変化を捉えることが出来ないだけだというのである。 物差しも人間も全て進行方向に対して縮むので我々はその「縮み」を感じることは出来ないという理屈である。 この理論はなかなか馬鹿にしたものではない。  計算してもらえば分かるが、彼の主張する通り、エーテルに対して速度を持つとき、観測装置や我々を含む全ての物体が進行方向に対して √(1-v2/ c2) 倍に縮むならば、マイケルソン・モーレーの装置では光の速度の変化は測定できないことになる。 これは相対論に出てくる「ローレンツ短縮」そのままの値である。  ではなぜ縮むのだろうか? これについても彼は計算している。 もし物体がエーテルの中を進む時、その質量が増加するならばこのことが説明できる、と。
     では、なぜ質量が増加するのだろうか? 当時の人々には分からなかった。  我々なら何と答えるだろうか? 現代の我々にとって質量が増加することはある意味「当たり前」に思える。  こう言うかも知れない。 「光の速度が一定だと仮定すれば質量の増加を説明できる!」と。  これでは堂々巡りである。 しかしこれは面白い。 もし、なぜ光の速度が一定なのか?という事の答えが知りたければ、この論理の堂々巡りをどこかで断ち切って、物が縮む理由か、物体の質量が増加する理由かのどちらかを解明してやればいいのではないだろうか。  残念ながら、そううまくは行ってくれないのである。 もしこれでうまく行くならば今ごろ主流は「エーテル理論」であって、相対性理論は受け入れられなかったであろう。 ローレンツの仮説には重大な欠陥がある。
     彼の仮説が成り立つのは、当時の実験装置についてだけなのである。 昔は精密に光の速度を測るためには、光を鏡で反射させて位相差を測るしかなかった。 光の速さを往復で測定していた時代の理論なのである。 しかし現在は測定技術も進歩して片道だけで測定できるようになっている。  この他にも彼の理論の欠陥はいくらでも出てくる。 しかし、それらは測定技術の進んだ現代の視点で言えることであって、科学史を調べていくと、どうもこれ以外の理由でローレンツの理論は破棄されたようなのだ。 まだローレンツが納得しないうちに相対論が発表されているし、当時の技術ではまだどちらが正しいかはっきりと言えなかったと思うのである。
     これは私の意見だが、おそらくローレンツ自身が自分の理論の薄っぺらさに気付いたのだと思われる。 これは彼が非常に悩みぬいた末のことであったであろう。 彼の理論では光の速さが一定に観測できることは説明できるのだが電磁気学の方程式の解釈が非常に複雑になってしまうのである。  そこで、彼は自分の理論を変更して、マクスウェルの方程式の形を変えない変換式、すなわち現在の「ローレンツ変換式」を導き出した。(1904年) これは相対論が発表される以前のことで、ローレンツの他にフィッツジェラルドも独自にこの式を導き出している。  前に言ったように、アインシュタイン以前に同じ事を考えた人は多くいたのである。  ところがこの式によると距離が縮むだけでなく、時間さえ変換されることが必要になってくる。  そこでローレンツはさらに頭をひねり、時間の縮みを説明するために別の仮説(局所時間を導入)を作ったようであるが、これはとても難解なものになってしまった。 実は私自身も大学時代「客観時間・主観時間」なる言葉を作って同じようなことを考えてみたことがあるがうまく行かなかった。 当時はローレンツについては知らなかった。
     とにかく、ローレンツの理論を生き残らせるために工夫して実際に合わせようとすると次から次へと色々な仮定が必要になってきてしまうのである。  そして物理学の歴史はそのようには進まなかった。  もっと安全な道を選んだのである。 実験の結果をそのまま基礎として受け入れようという方向である。
    資料提供先→  http://homepage2.nifty.com/eman/relativity/ether.html

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