松林図屏風と狩野派
前期授業の中で最も印象に残った作品、長谷川等伯の松林図屏風を取り上げようと思う。この作品は縦156.0・横347.0cmの紙本墨画で、六曲一双の屏風である。描かれたのは桃山時代・16世紀末で、作者は長谷川等伯。
桃山時代の絵画を代表するのは、狩野永徳を中心とする狩野派一門である。永徳は障壁画や屏風など、大画面に巨大な松や動物を豪快な筆さばきで描くという桃山時代絵画様式を完成させたとされている。「檜図屏風」に代表される豪胆で迫力ある絵画表現は当時の武将達に好まれ、信長の安土城障壁画をはじめ多くの絵画制作を行い、一門は隆盛を極めた。それらの絵画は寺院の書院などにも取り入れられるほどになるが、しかしその中で時代の流れに逆らうかのようにまるで別の空気を漂わせている作品がこの松林を描いた水墨画、「松林図屏風」であり、作者は巨大な狩野派に単身挑み、画壇の双璧を築いた一匹狼・長谷川等伯である。水墨画という手法の性格もあるだろうが、永徳らの華美な世界とは正反対の自然の静寂がある。等伯の故郷、能登の浜を題材にしたといわれる松林図はこの時代からみて異質なものであったといえるだろう。
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