肖像権に関する判例(京都府学連事件判決について)
1.事実の概要
当時、京都市内の大学法学部の学生であった被告人は、京都府学連主催の大学管理法反対のデモに参加し、先頭集団の列外最先頭に立って行進していた。デモ隊が、京都府公安委員会が京都市公安条例に基づいて付した許可条件および警察署長が道路交通法77条に基づいて付した条件に反するような行進を行ったため、許可条件違反等の違法状況の視察、採証に従事していた警察官が、違法な行進の状態および違反者の確認のため、歩道上から被告人を含むデモ隊の先頭部分の行進状況を写真撮影した。被告人はこれに抗議し、デモ隊員の持っていた旗竿で警察官に全治1週間の障害を負わせたため障害および公務執行妨害罪で起訴された。
2.判旨
①本件において問題となったのは、承諾なしにみだりに容貌等を撮影されない自由、いわゆる肖像権が憲法上保障されるかどうかである。
この点、本件判決は、「憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる」とした上で、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない」と判示している。
②ここには、(1)憲法13条の法的性格(具体的権利性があるか否か)および(2)幸福追求権の意味をいかに考えるかが問題として含まれている。
(1)の点については、13条に具体的権利性を肯定するのが通説である。13条後段の「幸福追求権」は、前段の個人の尊厳の原理と結びついて、人格的生存に不可欠な権利自由を包摂する包括的な主観的権利であって、いわゆる新しい人権は13条後段により保障されることになる。これは、人間の尊厳から生ずる自由の価値は歴史的所産である一つのカタログに包摂することができない性格を有するものであり、14条以下は歴史的に重要な人権を例示的に列挙し、特に保護の度合いが強い旨定めたものに過ぎないことによる。
本件判決もこの立場を採ったものである。
(2)の点については、個人の人格的生存に不可欠な内容の人権の総体をいうと解するのが通説である。幸福追求権を13条前段の個人の尊厳の原理と結びつけて理解した場合、それは人格的生存に必要不可欠の諸利益ということになり、ゆえに、幸福追求権を根拠として新しい人権を保障するためには、それが人格的生存に必要不可欠の利益という内実を有するものでなければならない。また、個人の人格的生存にとって不可欠の利益とまでいえないようなものまで新しい人権とすることは、いわゆる人権のインフレ化招き、人権制限が許容される場合も多くなり、人権保障の意味を希薄化する。
本件判決も、この立場を採った上で、肖像権もプライバシー権の一種として人格的生存に不可欠な権利として憲法上保障されるとしたものと解される。
③以上のように肖像権が憲法上保障されるとしても、他の人権と同様に一定の制約に服する。本件判決も、「個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護され
肖像権に関する判例(京都府学連事件判決について)
1.事実の概要
当時、京都市内の大学法学部の学生であった被告人は、京都府学連主催の大学管理法反対のデモに参加し、先頭集団の列外最先頭に立って行進していた。デモ隊が、京都府公安委員会が京都市公安条例に基づいて付した許可条件および警察署長が道路交通法77条に基づいて付した条件に反するような行進を行ったため、許可条件違反等の違法状況の視察、採証に従事していた警察官が、違法な行進の状態および違反者の確認のため、歩道上から被告人を含むデモ隊の先頭部分の行進状況を写真撮影した。被告人はこれに抗議し、デモ隊員の持っていた旗竿で警察官に全治1週間の障害を負わせたため障害および公務執行妨害罪で起訴された。
2.判旨
①本件において問題となったのは、承諾なしにみだりに容貌等を撮影されない自由、いわゆる肖像権が憲法上保障されるかどうかである。
この点、本件判決は、「憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定している...