太陽光発電産業技術ビジョン
-PV産業創生のための産業技術確立に向けた提言-
1. はじめに
日本の太陽光発電(PV)産業は、2001 年度に単
年度出荷量約 190MW、出荷金額約 1,100 億円に達
し
[1]、1999年度以来世界のPV産業の中でトップの座
を保っている。
PV は、世界的にも本格的需要期を迎える兆しが
見られ、
・ 電源多様化によるエネルギー供給への寄与
・ CO2ガス排出抑制による地球環境保全への貢献
・ 新産業創出による経済の活性化
など、PV の担うべき役割に対する期待が大きく膨ら
んでいる。
このような状況下で、太陽光発電協会(JPEA)によ
る「太陽光発電産業自立に向けたビジョン」が発表さ
れ
[2] [4]、1~2 兆円産業を目指す日本のPV産業ビジ
ョンが提示された。
しかしながら、PV 産業が継続的に発展して担うべ
き役割を全うするようになるまでには、解決すべき多
くの問題がある。なかでも、PV の経済性をみると、主
要な用途となっている住宅用 PV システムでは、その
発電単価[円/kWh]が既存の電源に比して約 3 倍と
高価格である。PV 産業創生のためには、一層の低
価格化を進め、広い需要層に受け容れられる商品を
提供できるようにすることが必要不可欠であり、これら
の課題を克服するためには、今後も、政府¥業界¥学
界の協調関係のもとに切れ目のない技術開発と関連
する諸制度の整備を進めていくことが重要である。
太陽光発電技術研究組合(PVTEC)戦略企画小
委員会は、長期的に見たPV産業の主に技術関連課
題について、その解決への道筋を明らかにすべく、
2001 年 11 月から2002 年 12 月にかけてPV産業技
術ビジョン研究を行った。本稿はその活動成果の要
約である。
2. 産業技術ビジョンの考え方
2.1 産業技術ビジョンの必要性
PVモジュールのコスト低減等の技術開発計画とし
ては、新エネルギー¥産業技術総合開発機構
(NEDO)の「太陽光発電技術研究開発」が、主に
2010 年の PV 導入目標
[3]達成に重点を置いて推進
されているが、さらに、2010 年度以降を見据えた
JPEA 産業ビジョンを実現するためには、一層の技術
進化を追求する必要があり、そのための課題を洗い
出し、解決に向けた新たな取組方策を見出して、現
行の技術開発計画を強化することが重要である。こ
れには、
1) JPEA 産業ビジョンをベースとして、将来の PV
技術のあり方、なかでも PV による発電単価の
あるべき水準を想定し、
2) それを可能とするPVモジュールコスト、BOS
*1
コスト、付加価値(CO2 排出抑制効果等の価
値)、商品としての信頼性等を分析し、
3) 具体的な技術開発課題、支援策等につき目標
年度を示した行動計画を検討する
ことが有効と考えられる。
2.2 産業技術ビジョンの視点
PV 産業の今後の姿を、JPEA 産業ビジョンを踏ま
えて考えると、概ね次のように想定される。
時
期
2010 年頃
出荷規模が単年度 1.2GWに到達
2020 年頃
出荷規模が単年度 4.3GWに到達
2030 年頃
出荷規模が単年度 10GWに到達
将
来
像
・ PVモジュールの種別では、バルクSi系
が過半を占めるが、一方、薄膜(Si、
CIS)系も市場評価が定着し、相応の市
場シェアを獲得する。
・ 住宅用 PV システムの発電単価
太陽光発電産業技術ビジョン
−PV 産業創生のための産業技術確立に向けた提言−
1. はじめに
日本の太陽光発電(PV)産業は、2001 年度に単
年度出荷量約 190MW、出荷金額約 1,100 億円に達
し[1]、1999 年度以来世界の PV 産業の中でトップの座
を保っている。
PV は、世界的にも本格的需要期を迎える兆しが
見られ、
・ 電源多様化によるエネルギー供給への寄与
・ CO2 ガス排出抑制による地球環境保全への貢献
・ 新産業創出による経済の活性化
など、PV の担うべき役割に対する期待が大きく膨ら
んでいる。
このような状況下で、太陽光発電協会(JPEA)によ
る「太陽光発電産業自立に向けたビジョン」が発表さ
れ [2] [4]、1〜2 兆円産業を目指す日本の PV 産業ビジ
ョンが提示された。
しかしながら、PV 産業が継続的に発展して担うべ
き役割を全うするようになるまでには、解決すべき多
くの問題がある。なかでも、PV の経済性をみると、主
要な用途となっている住宅用 PV システムでは、その
発電単価[円/kWh]が既存の電源に比して約 3 倍と
高価格である。PV 産業創生のためには、一層の低
価格化を進め、広い需要層に受け容れられる商品を
提供できるようにすることが必要不可欠であり、これら
の課題を克服するためには、今後も、政府・業界・学
界の協調関係のもとに切れ目のない技術開発と関連
する諸制度の整備を進めていくことが重要である。
太陽光発電技術研究組合(PVTEC)戦略企画小
委員会は、長期的に見た PV 産業の主に技術関連課
題について、その解決への道筋を明らかにすべく、
時
期
将
来
像
2010 年頃
出荷規模が単年度 1.2GW に到達
・ PV モジュールの種別では、バルク Si 系
が過半を占めるが、一方、薄膜(Si、
CIS)系も市場評価が定着し、相応の市
場シェアを獲得する。
・ 住宅用 PV システムの発電単価が家庭
用電灯料金並になると共に、品質・性能
を保証する仕組みが確立される。
・ 産業用 PV システム価格(円/W)が住宅
用システムを下回り、付加価値を加味
すると発電単価が業務用電力料金並み
になって工場・ビルでの PV 利用が離陸
する。
2001 年 11 月から 2002 年 12 月にかけて PV 産業技
術ビジョン研究を行った。本稿はその活動成果の要
約である。
2. 産業技術ビジョンの考え方
2.1 産業技術ビジョンの必要性
PV モジュールのコスト低減等の技術開発計画とし
ては、新エネルギー・産業技術総合開発機構
(NEDO)の「太陽光発電技術研究開発」が、主に
2010 年の PV 導入目標 [3]達成に重点を置いて推進
されているが、さらに、2010 年度以降を見据えた
JPEA 産業ビジョンを実現するためには、一層の技術
進化を追求する必要があり、そのための課題を洗い
出し、解決に向けた新たな取組方策を見出して、現
行の技術開発計画を強化することが重要である。こ
れには、
1) JPEA 産業ビジョンをベースとして、将来の PV
技術のあり方、なかでも PV による発電単価の
あるべき水準を想定し、
2) それを可能とする PV モジュールコスト、BOS*1
コスト、付加価値(CO2 排出抑制効果等の価
値)、商品としての信頼性等を分析し、
3) 具体的な技術開発課題、支援策等につき目標
年度を示した行動計画を検討する
ことが有効と考えられる。
2.2 産業技術ビジョンの視点
PV 産業の今後の姿を、JPEA 産業ビジョンを踏ま
えて考えると、概ね次のように想定される。
2020 年頃
出荷規模が単年度 4.3GW に到達
・ 薄膜系モジュールがコスト低減を実現
して市場拡大を牽引し、バルク Si 系と
双璧をなす。
・ PV の発電単価は 業務用電力料金並
になる。戸建住宅に次いで、産業用 PV
システムが急速に拡大する。
・ PV のリサイクル・リユース処理システ
ムが定着する。
〔注〕表中の PV 出荷規模は、参考資料[4]から引用。
*1
BOS:balance of system の略。システムのうち、モジュール以外の構成要素を指す。
6
2030 年頃
出荷規模が単年度 10GW に到達
・ バルク Si 系、薄膜(Si、CIS)系に加え、
新たなコンセプトによる太陽電池が実
用化される。
・ PV の発電単価が(付加価値分を考慮
すると)、電力事業者の発電コスト並み
に接近する。
・ 10 万 kW 級の大規模 PV 発電プラント
が稼動する。
薄膜(Si 系、CIS 系)太陽電池である。これら以外に、
超高効率集光系太陽電池や色素増感型太陽電池
等の長期的視点では有望と思われる技術があるが、
現時点では定量的な分析に必要なデータが不充分
なため、今後それぞれの研究開発が進展した段階
で改めて検討されることとなる。
表 3−1 に示すように、2015〜2020 年には「モジュ
ールコスト 75 円/W 程度」、また 2020〜2030 年には
「モジュールコスト 50〜60 円/W」が目標となり、要素
技術の進歩とともに、大量供給に適した生産技術の
本格的研究が実施され、産業技術として完成するこ
とが求められる。
現在の主役であるバルク Si 系太陽電池の技術水
準は、国際的にも第1 級水準とみられるが、その座は
将来も安泰とは言い切れない。欧米では、バルク Si
系の将来技術について複数のメニューが用意されつ
つある。今後の国際競争力を考えると、わが国にお
いても、従来あるいはそれ以上の技術開発が不可欠
である。
また、薄膜系モジュールについては、現時点の技
術ポテンシャルからみて 1 桁以上高い生産性の実現
が必要であり、生産技術の革新的向上が焦点になる。
これには、装置開発を含む膨大な費用が必要で、リ
スクが大きいが、大量に生産・普及させるためには、
避けて通れない課題である。これを効率的に開発す
るために、PV 関連業界の密接な協力と国による積極
的な支援体制が必要とされる。
前頁の将来像を実現するために、PV モジュール
の今後の技術開発構想を明らかにすると共に、主要
な需要分野毎に次の視点から課題の抽出と取組方
策が検討された。
(1) 住宅分野は、
・ PV 普及の基盤的市場である。
・ 一般需要家への普及には、設置費用の回
収年数*2 が 20 年では長過ぎると考えられ、
15 年で回収できる PV システム価格を目標
とする。(2010 年頃)
普及率の急拡大には 10 年程度で回収が
可能となるシステム価格を目標とする。
(2020 年頃)
・ 付加価値は、経済価値換算による定量化
が重要。政府、地方公共団体、電力会社
等の太陽光発電支援策の根拠となりうる定
量的評価を行ない、発電単価引き下げの
換算値を求める。
・ 施工面等における品質の確保と発電量
(kWh)の保証体制が重要であり、その方
途を探る。
(2) 産業用(工場・ビル向け)は、
・ 住宅に続く国内市場の中核と捉えられる。
・ 住宅用に比べ PV システムが大型になるこ
とから、規模の効果によって住宅用を下回
る低価格システムの実現を目標とする。
(2010〜2020 年頃)
・ 付加価値については、住宅分野と同様の
考え方に加えて、工場緑地、ヒートアイラン
ド現象緩和等の有用な付加価値を内在し
ている点を分析する。(支援策によって、産
業用PV 導入の一層の拡大が期待される。)
・ さらに、発電用市場への進出の可能性を
検討する。
3.2 住宅用 PV 市場の拡大策
住宅用 PV 市場拡大のためには、経済性と品質・
性能の信頼性の確保が重要である。
3.2.1 住宅用 PV システムの低価格化
一般需要家を掘り起こすためには、家庭用電灯料
金を下回る発電単価を実現することが前提条件であり、
PV システム設置費用を 15 年で回収できる低価格化
が求められる。このためには、モジュール価格の低減
に加えて、BOS(インバータ、付帯設備、据付工事等)
の低価格化を進める必要がある。また、PV の持つ付
加価値を経済価値に転換し、受益者自体や公的機関
が別途負担するものとして、PV システム価格または発
電単価から差し引くのが適当と考えられる。
これらを定量化に検討した結果、
① 住宅用 PV システムの価格は、2000 年の実績
平均 873 円/W(うち BOS 価格 284 円/W)から、
2010 年度には 300 円/W(うち BOS 価格 130
円/W)、2020 年度には 230 円/W(うち BOS 価
格 100 円/W)へと低減できる可能性があり、
3. PV 産業における技術の将来像と技術開発のあり方
3.1 モジュールコストの低減策
モジュール製造コストの低減は、PV システムの経
済性確立の基盤である。
新エネルギー部会報告[3]では、2010 年度までに
モジュールコスト 100 円/W で量産が行われることとさ
れている。その先の、2020 年度(1 兆円産業)、2030
年度(2 兆円産業)を見据えたコストダウンのための
技術開発のあり方について、前節の考え方に沿って
検討と分析を行ない、表 3−1 に示す技術開発の里
程を構想した。
検討対象とされた技術は、バルク Si 系太陽電池、
*2
設置費...