中国の環境問題とこれからの日中環境協力~『環境問題のデパート』

閲覧数5,273
ダウンロード数145
履歴確認

    • ページ数 : 15ページ
    • 全体公開

    資料紹介

    立法と調査 2008.9 No.285 35
    中国の環境問題とこれからの日中環境協力
    ~『環境問題のデパート』中国との付き合い方~
    環境委員会調査室 杉 本
    すぎもと
    勝則
    かつのり
    1.はじめに
    中国は『環境問題のデパート』と言われている
    1。今の中国には大気汚染、水質汚濁、土
    壌汚染のような従来型の公害問題からダイオキシン、環境ホルモン等の化学物質による新
    しいタイプの環境問題、さらには砂漠化や黄砂問題のような地域特殊的な問題から、CO

    である。
    これを日本の公害・環境問題の歴史になぞらえると、19 世紀に発生した我が国公害問題
    の原点である足尾鉱毒事件が、21 世紀の現代においても中国では存在し、高度成長期(1955
    年~1973 年)に多発した、水俣病、四日市ぜんそく、光化学スモッグ等の公害病が中国で
    今や中国は日本をはるかに超え世界最大のCO
    2排出国になろうとしている。中国は、
    120 年にわたる日本の公害・環境問題の歴史をわずか2~30 年で経験しようとしているの
    である。
    公害・環境問題の歴史は、その発生とそれへの対応による解決の歴史である。経済の成

    タグ

    資料の原本内容

    中国の環境問題とこれからの日中環境協力
    〜『環境問題のデパート』中国との付き合い方〜
    環境委員会調査室

    すぎもと

    かつのり

    杉本

    勝則

    1.はじめに
    中国は『環境問題のデパート』と言われている1。今の中国には大気汚染、水質汚濁、土
    壌汚染のような従来型の公害問題からダイオキシン、環境ホルモン等の化学物質による新
    しいタイプの環境問題、さらには砂漠化や黄砂問題のような地域特殊的な問題から、CO
    の排出、地球温暖化への対応というようにありとあらゆる環境問題がそろっているから



    である。
    これを日本の公害・環境問題の歴史になぞらえると、19 世紀に発生した我が国公害問題
    の原点である足尾鉱毒事件が、21 世紀の現代においても中国では存在し、高度成長期(1955
    年〜1973 年)に多発した、水俣病、四日市ぜんそく、光化学スモッグ等の公害病が中国で
    は現在も進行しているのである。さらに、将来最も重要な問題になる地球温暖化について
    も、今や中国は日本をはるかに超え世界最大のCO2排出国になろうとしている。中国は、
    120 年にわたる日本の公害・環境問題の歴史をわずか2〜30 年で経験しようとしているの
    である。
    公害・環境問題の歴史は、その発生とそれへの対応による解決の歴史である。経済の成
    長がその対応に時間的余裕を与えるものであればその矛盾は拡大しない。しかし、中国に
    おいては「改革開放」以来 30 年間、途中、天安門(第二次)事件による落ち込みはあった
    ものの年率 10%近くの高度経済成長が続いており、矛盾は拡大するばかりである。
    ここに中国が『環境問題のデパート』と言われる原因があり、問題解決の糸口もここか
    ら見付けていかなければならない。
    では、この『環境問題のデパート』に対し、中国政府はどのように対応してきたのであ
    ろうか。中国政府が環境問題に対して熱心でなかったからこそ『デパート』になってしま
    ったと思われている方も多いだろう。しかし、その答えはそうであるとも、そうでないと
    も言える。
    以下では、まず、中国の公害・環境問題の現状がどのようなものであるかを述べ、それ
    に対する中国政府の対応、日本の環境協力について述べていくが、高度経済成長の真っ只
    中にあり、一つの国の中に先進国と途上国が混在する複雑な国家である中国に対し、かつ
    て高度経済成長下で多くの公害被害を出しながらもこれを克服し繁栄を掴んだ日本が、ど
    のような環境協力を行っていくべきかを述べていきたい。
    1

    地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長小柳秀明氏は、1997 年以来中国の環境問題、日中環境協力
    に携わり、日経エコロミーに現地レポート「環境問題のデパート 中国の素顔」を連載している。
    http://eco.nikkei.co.jp/column/eco-china/article.aspx?id=MMECcj010021122007

    立法と調査

    2008.9

    No.285

    35

    2.中国の環境問題の現状と特徴
    (1)ガンの村
    「50 年代には米も研げたし野菜も洗えた、60 年代には洗濯もできたし灌漑もできた、70
    年代には水質が悪くなり、80 年代には魚蝦が絶滅し、90 年代には下痢が続いてガンになっ
    た」これは淮河(わいが 中国中部を流れる第3の大河)が時代とともに汚れていく様を
    歌ったものである。改革開放政策が始まってから短期間で水質が悪化していった様子がう
    かがえる。
    この淮河支流域には「ガンの村」として中国メディアでも取り上げられた河南省の「黄
    「ガンの村」とは何とも奇妙な呼び名だが、同村の死亡原因の 54%
    孟営村」が存在する2。
    がガンであることを聞けば、その名前の由来が分かろう。黄孟営村をガンの村に変えたの
    は、製紙工場、化学薬品工場を始めとする上流の各種工場から未処理のまま流された工場
    排水である。川の水や浅井戸の水を昔どおりに生活用水として利用していくうちに猛烈な
    勢いでがん患者が増えていったのである。
    広東省北部の涼橋村もガンの村として知られている。この村は、我が国でもシリーズも
    ので新聞報道3されたが、1970 年代から操業を続ける鉱山が適切な公害防止手段を講じる
    ことなくカドミウムや鉛、亜鉛等を垂れ流し続けたため重金属で川も田畑も汚染され、川
    には魚も住まなくなり、貧しい村人たちは汚染された水を飲み、汚染された田畑から取れ
    る作物を食べ続けたためガン患者が急増したのである。
    これらの実態は、正に歴史の教科書で見た明治時代の足尾鉱毒事件そのものであり、筆
    者が学生時代に激しい憤りを感じた、水俣病、四日市ぜんそくや製紙工場によるヘドロ公
    害そのものである。日本が経験した凄まじいばかりの環境破壊・公害被害が今の中国では
    起こっているのである。
    中国にはこのようなガンの村が 20 とも 50 ともあると言われている。今の日本の感覚か
    らすると驚くべき、また、許されざるべき事態が進行しているのである。しかし、それら
    はすべて、3〜40 年前の日本でも見られた事態である。当時のことを思い起こしてみると、
    川は真っ黒で、工場の煙突からはモクモクと煙が出ていた。そして、人々が健康を害し、
    病に倒れ、それが大変な問題であると気付くまで、真っ黒な川やモクモクと出る煙は経済
    成長の証として好意的に受け入れてきた。
    中国の環境破壊や公害被害のニュースを見た日本人の多くは、中国はなんと遅れた、汚
    い国であると嫌悪し、非難するであろう。しかし、3〜40 年前には日本も遅れた、汚い国
    だったのである。日本人全体が環境破壊や公害被害を許されざるものと認識したのは高度
    経済成長が終焉し、人々が豊かになり、食べることより健康への関心が高まった最近のこ
    となのである。

    2

    北村豊「中国のガンの村で考える 2010 年エネルギー・環境問題」
    http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070906/134149/?ST=print
    3
    「シリーズ公害 中国ガンの村」毎日新聞大阪版 2007.9.17〜
    http://mainichi.jp/select/science/pollution/archive/news/2007/09/20070917ddn010040019000c.html

    36

    立法と調査

    2008.9

    No.285

    今の中国は、北京や上海などの沿岸地域を除いて、3〜40 年前の日本の状況と同じであ
    ると見てよいであろう。衣食は足りるようになったものの豊かになったとは言えず、地方
    では未だに環境よりも経済の成長が優先されている。ただ、地方においても「ガンの村」
    を始めとする公害被害者が増え続けるとともに住民の意識も高まり、積極的に自分たちの
    権利を守ろうとする動きにつながっている。後述するように中国政府も事の重大さに気付
    き本気で対策を取ろうとしている。公害による悲惨な健康被害を体験し、未だにその後遺
    症としての訴訟が続いている日本としては、環境破壊は、悲惨な公害病を生みだし、後世
    にわたって治療のための多額の賠償を払い続けなければならない反面、最初に公害対策を
    すればその時はお金が掛かっても後に多額の賠償を払わなくても済むという、今の日本で
    は当たり前の損得勘定を公害の怖さを知らない中国人に積極的に語ることで、公害の被害
    者を一人でも少なくすることを第一に行うべきではないだろうか。
    (2)水質汚染状況
    河川の汚染状況については「ガンの村」でも紹介したが、中国全土での水質汚染はどの
    ような状況であろうか。
    中国は、北から松花河、遼河、海河、黄河、淮河、長江、珠江の主要7河川による7大
    水系が形成されているが、その水質類別分布比率は I〜Ⅲ類(きれいな水質)が 46%、Ⅳ
    類(工業用水に使用可能な汚染水)が 23%、Ⅴ類(農業用水に使用可能な汚染水)が5%、
    Ⅴ類以下(何にも使えない汚染水)が 26%となっている。
    (図1)
    これを河川別に見ると、海河水系(北京、河北省等)
    、遼河水系(遼寧省等)は重度の汚
    染、松花江水系(吉林省、黒竜江省等)
    、黄河水系(山西省、陝西省等)
    、淮河水域(河南
    省、安徽省等、黄河と長江の中間)は中度の汚染、長江水系(湖南省、四川省等)
    、珠江水
    系(広東省、広西壮族自治区等)は良好な水質となっている。
    (図2)
    マルコポーロや日中戦争で有名な北京の盧溝橋は永定河に架かる橋であるが、永定河に
    は年間を通してほとんど水が流れていない。中国では、長江水系や珠江水系等雨の多い華
    南地域に比べ、華北地域は雨も少なく(海河の年間水量は長江の 30 分の1)人口、工場も
    多いため汚水は薄められることなく高濃度になっていく。このことが北部河川に重度の汚
    染をもたらし、健康被害を広めている。また、湖水の富栄養化も進み、
    「華北の明珠」と呼
    ばれる華北地方最大の淡水湖白洋淀(北京の南西)や高原都市昆明(雲南省)にある風光
    明媚な滇池(テンチ)は重度の富栄養湖となっている。
    かつて、日本でも多くの有害物質を含んだ工場排水が河川に垂れ流しにされてきたが、
    日本では、河川は海までの距離が短く、しかも雨が多いため汚染物質は薄められ海に流れ
    出た4。内陸河川が多く、雨量の少ない中国での河川汚染の深刻さ、その水の利用による健
    康被害の深刻さがお分かりいただけると思う。

    4

    水俣病はチッソの工場が水俣湾に流したメチル水銀が湾内に滞留し、主に汚染された魚介類を人が摂取する
    ことで発生...

    コメント1件

    yswn13 非購入
    公害・環境問題の歴史
    2009/10/05 19:43 (15年1ヶ月前)

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。